『時計Begin』編集長 中里 靖 × ファッションエディター 荻山尚【前編】

2016.11.24

『時計Begin』編集長 中里 靖 × ファッションエディター 荻山尚【前編】

時計選びの三大キーワードとは?

荻山 本日は私の友人であり、「時計Begin」編集長でもある中里さんをお迎えして、いま注目すべき腕時計の世界についてお伺いしたいと思います。

中里 よろしくお願いします。

荻山 まずは、シングルモルト「グレファークラス」で舌を滑らかにする準備運動を。

中里 ありがと。

荻山 こちら、1836年にスコットランドで創業した老舗で、ベンリネス山の麓に蒸留所をもつ家族経営のウイスキーメーカーでして。

中里 香りがほどよいね。ほのかに甘みもある。

荻山 ほのかな甘さはシェリー樽で熟成しているからかもしれません。さすが鋭い!

中里 チーズもいいの?

荻山 どうぞどうぞ。「スティルトン」は、フランスのロックフォール、イタリアのゴルゴンゾーラと並んで世界三大ブルーチーズと称され、女王エリザベス二世の大好物としても知られているそうです。

中里 いやー、ごちそうさま。

時計作りの究極「マニュファクチュール」

荻山 さて、いま時計の売れ筋ってどんな感じなのですか?

中里 いくつかあるけど、価格の二極化ってのがまずあるかな。リシャール・ミルのような超高額時計と、50万円前後の機械式。売れているのは高いか安いか、どちらか。ただ、時計好きに響くキーワードとして、マニュファクチュールというものが長年ある。

荻山 自社でパーツ製造から組み立てまでを一貫して行うメーカーのことですね。

中里 そう。多くの時計ブランドは、ムーブメントを専業で作っているいわば下請けから購入して、それに少し手を加えて組み立てている。でも、マニュファクチュールと呼ばれるところは一貫生産するから、その分、信用度が高い。

荻山 自社ですべてを作れるというプライドも感じますね。

中里 なかでも「パテック フィリップ」は別格。

荻山 私も1953年製のカラトラバ『Ref.96』を愛用しています。幼稚園児に時計の絵を描かせたら、これになるだろうっていうくらいシンプルな時計ですが、どこに凄さがあるのですか?

中里 ひとつひとつの部品の精度、作りの緻密さが凄い。ルーペを使ってじっくり見てもどこにも粗が見つからない。たとえば、文字盤のペイントにムラは一切なく、針の細さと仕上げの美しさ、インデックスの設置位置にずれや傷は微塵もない。それらをすべて手作業でやっているところも凄い。

荻山 デザインも好きです。

中里 オギちゃんの『Ref.96』は1932年に発表されたカラトラバのルーツ。ただ、カラトラバと呼ばれるようになったのは1980年代以降のことなんだけどね。バウハウスの理念を取り入れたデザインは、現行カラトラバ『Ref.5196』にも継承されている。ミニマム、レス・イズ・モアの具現化だね。

荻山 小ぶりで薄いのに男性の腕にも馴染みますね。

中里 ラグ(ケース上下に付くストラップとの結合パーツ)の造形が要因かな。これは「オフィサー・スタイル」と呼ばれるもので、ラウンドケースのできるだけ外側にラグを配すことで、小ぶりで薄いケースでも男性の太い腕にもフィットするし、見た目も華奢だけに終始しないようになっている。

荻山 ケースの彫りも美しい!

中里 ベゼルの装飾は、クル・ド・パリ(パリの爪。ピラミッドのような刻み)のギョーシェ彫り。これも手作業で行われる。機械でやることもできるんだろうけど、手で作られるから温かみみたいなものが感じられるよね。

 

荻山 芸術ですね。ところで、「パテック フィリップ」は、トゥールビヨンなどの複雑機構も作れるマニュファクチュールですが、このシンプルな三針も凄いんですか?

中里 搭載される『Cal.215PS』は、手巻きの薄型ムーブメントの名機と時計業界では称される。珍しい技術を使っているわけではないんだけど、奇をてらわず、ベーシックの王道を、緻密で正確に、しかも手で仕上げているところが凄い。

荻山 クリスティアーノ・ロナウドのインサイドキックのような。オーバーヘッドキックや無回転シュートもできるけど、基礎の精度も凄い、みたいな。

中里 たとえとしては微妙だけど、ま、そんな感じかな(笑)。

荻山 恐縮っす(汗)。どんな人が似合う時計だと思いますか?

中里 むかし、俳優の三國連太郎さんを取材したことがあったのね。三國さんは機械式時計好きで、ロレックスのプリンス、ジャガー ルクルトのレベルソ・デュオ、カルティエのタンク、ブレゲのアエロナバルなどをお持ちだった。どれもみな名作として誉れ高いモデル。で、人生最後の時計としてカラトラバが欲しい、とおっしゃっていた。でも僕にはまだ早いかな、とも。当時、80歳くらいの時のインタビューだったんだけどね。

荻山 いい話ですねー。

中里 三國さんはなんで機械式時計がお好きなんですか、と伺うと、「クォーツは勝手に時間が進むから、時間に支配されているような気分になります。でも、機械式は人がリュウズを巻くなりして手を加えないと動きません。機械式時計だと自分が時間をコントロールしているような気になれる。そこが好きなところです」と。恰好いいなあって思ったね。

荻山 カラトラバが似合う男になれるよう精進します。

中編は12月1日(木)公開予定



●〈
パテック フィリップ〉
カラトラバ Ref.5119R-001
ムーブメント:手巻き
ケース素材:ローズゴールド
ケース径:36mm

■北館5階 時計サロン パテック フィリップコーナー

 

●今回の手みやげ
〈D&M CAVE NAGOYA〉グレンファークラス105
税込8,640円 ■本館地下2階
力強くドライなだけではなく、なめらかさや温かみを合わせ持つウィスキーです。“105”とは英国式アルコール度数の標記で「60度」の意味で、ドライフルーツの様な甘い香りの力強い素朴な味わいを持つモルト。60度というアルコール度数に臆さずに試してみて下さい。少し水を加えることによって極上の旨みが広がります。

◎D&M CAVE NAGOYAについて
ワイン、日本酒をメインに、家庭料理やチーズ、 ドライフルーツなどとのマリアージュを提案します。

 

〈チーズ・オン・ザ・テーブル〉
ブルースティルトンチーズ

100g 税込702円 ■本館地下2階
イギリス原産のチーズの1つ。ねっとりした口当たりと青カビの芳醇な香りが特徴。単に「スティルトン」といえば通常ブルー・スティルトンを指す。フランス原産のロックフォール、イタリア原産のゴルゴンゾーラとともに「三大ブルーチーズ」として並び称されている。

◎チーズ・オン・ザ・テーブルについて
ナチュラルチーズ専門店、cheese on the table。チーズのショッピングはもちろん、 チーズを使った料理レシピ、各種チーズの紹介やチーズの故郷をご紹介。チーズ・オン ザ テーブルヨーロッパ直輸入の様々なチーズをお届けします。

 

 

 


 

 

中里 靖
1969年生まれ。47歳。約10年間のフリーエディター&ライター時代を経て、2003年に世界文化社へ入社。男性誌『MEN’S EX』編集長、女性誌『MISS』編集長代理を歴任した後、2012年より『時計Begin』『メルセデス・ベンツ マガジン』両誌の編集長を務める。

時計Begin

時計Begin
時計情報No.1!本格機械式時計を中心に、ビギナーからマニアまで楽しめるこだわりの特集や、バーゼルフェアなどの最新情報を提供する時計情報誌。全国の時計ショップ情報も徹底網羅し、上質かつ最速の傑作腕時計情報を集約しています。3・6・9・12月 各10日発売予定

<HP>http://www.e-begin.jp/book/

<facebook>https://www.facebook.com/TokeiBegin/

 

 


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この記事のライター

荻山 尚 / ファッションエディター

1972年生まれ。青山学院大学卒業後、商社に入社した後に編集者に。
レオン副編集長、センス編集長などを務めた後に独立。現在はファッションエディターとして雑誌やWEB、広告などに執筆する。
雑誌GGのファッションディレクターも務める。